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新潟地方裁判所 昭和60年(ワ)163号 判決

原告

栗林好英

右訴訟代理人弁護士

馬場泰

片桐敏栄

被告

日本国有鉄道承継人日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

坂井照一

右指定代理人

石山亮

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告と被告との間で、日本国有鉄道が昭和六一年一月一八日付でなした原告を免職する旨の懲戒処分は無効であることを確認する。

2  原告が被告に対して労働契約上の権利を有することを確認する。

3  被告は、原告に対し、同年一月一九日以降、毎月末日限り金一八万七四〇〇円及びこれに対する右各支払期から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告は、原告に対し、同年三月末日限り金五万八〇九四円、同六二年三月末日限り金八七万一四一〇円、同六三年三月末日限り金八六万二〇四〇円、平成元年三月末日限り金三五万六〇六〇円、及びこれらに対する右各支払期から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四三年六月一日、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)新潟支社に職員として採用され、同四九年四月一日以降構内指導係兼交通保安係の職に従事していた。

被告は、同六二年四月一日、日本国有鉄道改革法一五条、同法附則一項、二項、日本国有鉄道清算事業団法九条一項、同法附則一条、二条により原告に対する国鉄の労働契約上の地位を承継した。

2  国鉄は、同六一年一月一八日付をもって日本国有鉄道法(以下「国鉄法」という。)三一条により原告を免職する旨の懲戒処分(以下「本件処分」という。)をなした。

3  被告は、本件処分を理由に原告の労働契約上の権利を争っている。

4(一)  原告は、本件処分当時、国鉄との間の労働契約に基づき、遅くとも毎月末日までに一か月金一八万七四〇〇円の(基準内)賃金を得る権利を有していた。

(二)  国鉄は、その職員に対し、同六〇年度の年度末手当として基準内賃金の〇・三一か月分を、同六一年度の夏期、年末、年度末各手当の合計として同賃金の四・六五か月分を、また、被告は、その職員に対し、同六二年度の夏期、年末、年度末各手当の合計として同賃金の四・六か月分を、同六三年度の夏期手当として同賃金の一・九か月分を、それぞれ支給した。

従って、原告は、国鉄及びその承継人である被告の職員として、遅くとも毎年度末(三月末日)限り、同六〇年度は基準内賃金(金一八万七四〇〇円)の〇・三一か月分である金五万八〇九四円の、同六一年度は同賃金の四・六五か月分である金八七万一四一〇円の、同六二年度は同賃金の四・六か月分である金八六万二〇四〇円の、同六三年度は同賃金の一・九か月分である金三五万六〇六〇円の、賞与を受ける権利を有している。

よって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因はすべて認める。

三  抗弁

1  原告の本件所為と本件処分

(一) 三里塚・芝山連合空港反対同盟北原派は、同六〇年一〇月二〇日、千葉県成田市三里塚において、同市三里塚上町二番地(三里塚第一公園)を拠点に「二期工事阻止、不法収用法弾劾、東峰十字路裁判闘争勝利、動労千葉支援、一〇・二〇全国総決起集会」(以下「本件集会」という。)を開催し、原告は右集会に参加した。

(二) 原告は、同日午後四時過ぎころから午後六時三五分ころにかけて、右第一公園から同市三里塚四二番地(三里塚十字路)を経て同二三七番地先に至る路上及びその付近において、多数の者が共謀のうえ、丸太(長さ約六メートル)数本、多数の火炎びん、鉄パイプ、角材、竹竿、木刀、根棒、石塊などの凶器を準備して集合し、これを鎮圧しようとする警察部隊に対し、丸太を抱えて突入し、鉄パイプ、角材、竹竿などで突き、殴打したうえ、多数の火炎びん、石塊を投げつけるなどの行為を行なった事件(以下「本件事件」という。)につき、同日午後五時三五分ころ、右十字路から大袋方向に移動した鉄パイプ集団の最前列におり、両手に持った一・二ないし一・三メートル位の鉄パイプを振り上げ、機動隊員を殴打するとともに、さらに正面から殴りかかるなどした(以下「本件所為」という。)。

(三) 原告は、右日時ころ、右場所において、公務執行妨害罪、凶器準備集合罪により現行犯逮捕され、引続き同年一一月一一日まで勾留され、右罪名の他火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反につき同日起訴猶予処分となり釈放された。

(四) 原告の本件所為は、国鉄法三一条一項一号及び同号にいう業務上の規程である日本国有鉄道就業規則(以下「国鉄就業規則」という。)一〇一条一七号の「その他著しく不都合な行為があった場合」に該当するとして、国鉄総裁を代行する新潟鉄道管理局長高原清介は、同六一年一月一八日原告に対し本件処分をなした。

2  本件所為の懲戒事由該当性

(一) 国鉄法三一条一項は、国鉄の職員が同項一号、二号に掲げる事由に該当した場合には懲戒処分をなしうる旨定め、同項一号は、懲戒事由として、「この法律又は日本国有鉄道の定める業務上の規程に違反した場合」を挙げている。そして、右の業務上の規程に当たる国鉄就業規則一〇一条は、具体的に懲戒事由を定めているが、同条一七号にいう「その他著しく不都合な行為があった場合」には、単に職場内又は職務遂行に関係のある所為のみを対象としているものではなく、国鉄の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認められる、職場外の職務遂行に関係のない所為で著しく不都合なもの、と評価されるようなものを包含する。なお、右規定は、さらに具体的な業務阻害等の結果の発生を要求していない。

(二) 原告の本件所為は、職場外でなされた職務遂行に関係のないものではあるが、前述のようなものであって、著しく不都合なものと評価しうることは明らかであり、それが国鉄の職員として相応しくないもので、国鉄の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認めることができるものであるから、国鉄法三一条一項及びそれに基づく国鉄就業規則一〇一条一七号所定の事由に該当する。

3  本件処分の相当性

(一) 国鉄法三一条一項は、国鉄職員が懲戒事由に該当した場合、懲戒権者である国鉄総裁は、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる旨規定しているが、懲戒事由に該当する所為をした職員に対し、総裁がどの処分を選択すべきかについては、その具体的基準を定めた法律の規定はなく、また、国鉄就業規則にも具体的基準の定めはない。

ところで、懲戒権者がどの処分を選択するかを決定するにあたっては、懲戒事由に該当すると認められる所為の外部に表われた態様のほか、右所為の原因、動機、状況及び結果等を考慮すべきことはもちろん、さらに当該職員のその前後における態度、懲戒処分等の処分歴、社会的環境、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響など諸般の事情を総合考慮したうえで、国鉄の企業秩序の維持確保という見地から考えて相当と判断した処分を選択すべきであるが、どの処分を選択するのが相当であるかについての判断は、前述のように、かなり広い範囲の事情を総合したうえでなされるものであり、しかも、前述のように、処分選択の具体的基準が定められていないことを考えると、右の判断については懲戒権者の裁量が認められているというべきである。従って、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。

(二)(1) 前記のように、成田空港の二期工事に反対する三里塚・芝山連合空港反対同盟北原派は、「二期工事阻止、不法収用法弾劾」などをスローガンに、同六〇年一〇月二〇日本件集会を開いたが、これを支援する中核派などの過激派集団は、右集会を「今年最大の決戦」と位置づけ、同年夏ころから「空港突入、占拠、解体」を目標にして、全国からの動員を呼びかけていた。従って、右集会後において、これらの過激派は、成田空港を警備する警察官と衝突することを当然予想し、警備陣を突破して空港を占拠する計画を立てていたのであり、集会後のデモに使用するため、角材、鉄パイプ、火炎びん、投石用のコンクリート片等の凶器となるものを事前に準備していたのである。一方、空港を警備する警察も多数の警察官を動員して、防備態勢を整えていた。

このような状況の下において、過激派集団のデモに参加すれば、警察官との激しい衝突によって違法行為を犯すことになりうることは当然予測できることであった。事実、中核派などの過激派集団は、右集会終了後の午後四時過ぎころ長さ約六メートルの丸太を数人で抱えた第一陣を先頭に、三里塚十字路で空港への侵入を防ぐため警備していた警察隊に突入し、警察官に鉄パイプで殴りかかり、火炎びんを投げつけ、二トンにも達するコンクリート片等を投げつけ、その結果、五〇余名の警察官に重傷を負わせたのである。

(2) 原告が、右集会後のデモ隊が前述のような行動に出ることを予測してこれに参加したことは、原告が鉄パイプを持って右集会に参加したこと、右集会に参加する前に、もし予定どおり帰宅しない場合には、第三者に原告の勤務先である東新潟港駅に欠勤届を出すよう依頼していたことによって明らかである。

(3) 本件所為は、公務執行妨害罪、凶器準備集合罪及び火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反にあたる重大な犯罪行為であって、その具体的な態様も相当に積極性が認められるのみならず、計画的でもある。さらに、原告には、戒告処分二回(同四九年八月二八日及び同五〇年九月八日)、三か月間の停職処分一回(同五二年八月三日)の処分歴もあること、並びに国鉄が極めて高度の公共性を有する公法上の法人であって、公共の利益と密接な関係を有する事業の運営内容のみならず、広くその事業のあり方自体が社会的な批判の対象とされ、その事業の円滑な運営の確保と並んでその廉潔性の保持が社会から近時強く要請ないし規定されていることなどの諸事情を総合すれば、国鉄の総裁が原告に対し本件所為につき免職処分を選択したことは相当であったというべく、本件処分が裁量の範囲を超えた違法のものであるということは到底できない。

(4) ちなみに、本件事件に参加して逮捕された国鉄職員は、原告を含め四名(うち一名は起訴、他の三名は起訴猶予)で、いずれも懲戒免職となり、さらに、右事件に参加して逮捕された地方公務員である教諭(いずれも不起訴)についても、いずれも懲戒免職となっている。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1のうち、(一)、(三)、(四)は認める。(二)のうち、本件事件については不知(但し、警察部隊の不当な介入のため集会参加者の一部との間で衝突があったことは認める。)、本件所為については否認する。

2  抗弁2は争う。

仮に本件所為が認められるとしても、本件所為は国鉄就業規則一〇一条一七号にいう「その他著しく不都合な行為があった場合」に該当しない。

労使関係は、労務の提供とこれの受領を本質とする継続的契約関係であるが、使用者が労働者に対し制裁を課することができるのは、両者の信頼関係や企業秩序を害する場合に限られ、これを離れて労務の提供と全く関係のない、市民生活上の行為をとらえて制裁を課することはできないといわなければならない。

従って、国鉄就業規則一〇一条一七号にいう「その他著しく不都合な行為があった場合」とは、職務上ないし職務に関連した非違行為であって、これに先立つ同条一号ないし一六号の掲げる各定型に盛りえなかったところの「著しく不都合な行為」を指称したものというべきである。仮に職務に関連した非違行為の外延を少し広く解して職場外の行為を含むとしても、これについて制裁を課するためには、当該行為が企業の社会的評価を低下毀損し、企業活動ないし企業秩序に悪影響を及ぼすことが具体的かつ客観的に認められなければならないと解すべきである。

原告の本件所為は、一現場従業員にすぎない原告が、その思想上政治上の主張に基づき、一市民として、職場外で職務とは全く関係なく行動したものであって、これによって原告が国鉄の指示にしたがって労務を提供することに何らの支障も生じなかったし、かつ、国鉄の社会的評価の低下毀損はもとより、そのおそれさえ客観的に認めるべき格段の事情もなかったのであるから、国鉄就業規則一〇一条一七号に該当しない。

3  抗弁3のうち、(一)は争う。(二)(1)のうち、三里塚・芝山連合空港反対同盟北原派の本件集会開催は認め、その余は不知ないし否認する。(二)(2)のうち、原告の本件集会参加を認め、その余は否認する。(二)(3)のうち、原告が被告主張の戒告処分二回及び停職処分一回を受けたことは認め(なお、右停職処分は、その後裁判所によって無効であることが確認され、同裁判は確定した。)、その余は否認ないし争う。(二)(4)は不知。

仮に本件所為が認められ、それが国鉄就業規則一〇一条一七号にいう「その他著しく不都合な行為があった場合」に該当するとしても、本件処分は甚だ過酷に過ぎ、社会観念上著しく妥当を欠いた処分権を濫用した違法なものである。

懲戒免職処分は、通常終生続くものと期待された雇用関係を、当事者の一方的判断で打ち切って賃金、退職金を失わせ労働者の生活の基盤を一挙に覆し、企業から永久に追放するという最も重い処分である。従って、それは諸般の事情を総合考慮し、真にやむをえない場合に限り認められるべきである。

そして、原告の地位・職務、処分歴、勤務態度、国鉄における過去の同種事案ないし職場外行為に対する処分例等諸般の事情に照らし、本件処分は甚だ過酷に過ぎ、社会観念上著しく妥当を欠いた処分権を濫用した違法なものである。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  抗弁1の各事実は、(二)を除き、いずれも当事者間に争いがない。

三  そこで、抗弁1(二)の事実(本件事件と原告の本件所為)について検討する。

(証拠略)を総合すれば、以下の事実を認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件集会を企画・開催した三里塚・芝山連合空港反対同盟北原派は、昭和六〇年一〇月二〇日午後零時三〇分ころから千葉県成田市三里塚上町二番地所在の三里塚第一公園において、総決起集会を開催し、この集会後、右第一公園から三里塚十字路を右折して大袋方向に向い岩山記念館付近までデモ行進することを予定していた。

(二)  右集会には原告も含め約三九五〇名が参加していたが、その一部である過激派集団(武装)は、同日午後四時ころ、右第一公園内に多数の角材、鉄パイプ、火炎びんの他、多量のコンクリート破片を三台のダンプカーで運び込み、右集会終了後の同日午後四時二〇分ころ、右凶器を携えたうえ、右第一公園北口を出発して正規のデモコースを右十字路方面に向かって開始し、右十字路付近の路上において、長さ約六メートルの丸太を抱えた先頭集団が同所で警備に当たっていた機動隊に突入し、後続集団が鉄パイプ、角材などで殴りかかるとともに、火炎びんやコンクリート砕石を投げつけるなどの行為をした。

(三)  過激派集団と機動隊との衝突は、右第一公園から右十字路を経て大袋方向に向かう同市三里塚上町二三七番地先に至る路上及びその付近において、同日の午後四時三〇分ころから午後六時ころまで続き、これによって機動隊員約五〇数名が負傷し、過激派集団約二四〇名が凶器準備集合罪、公務執行妨害罪などにより逮捕された。

(四)  なお、正規のデモ隊(非武装、約二三〇〇名)は、同日午後四時五〇分ころ、右第一公園南口を出発し、正規のデモコースと違うルートで大袋に至り、その後正規のデモコースに入って予定の場所までデモ行進をした。

(五)  原告は、右十字路から大袋方向に移動した鉄パイプ集団の最前列におり、両手に持った約一・二ないし一・三メートルの鉄パイプを振り上げ、機動隊員を三回殴打するとともに、さらに正面から殴りかかるなどし、右機動隊員により、同日午後五時三五分ころ、同市三里塚三五番地先路上で凶器準備集合罪、公務執行妨害罪により現行犯逮捕されたが、その時の原告は白ヘルメット、白タオル、サングラス、紺カッパ、白軍手を着用していた。

以上の認定事実を総合すれば、原告が本件集会に参加した後過激派集団と行動を共にし、本件事件の渦中にあって本件所為をなし、警察官の現認に基づき現行犯逮捕されたことが明らかである。

四  次に、抗弁2の事実(本件所為の懲戒事由該当性)について検討する。

(一)  企業が社会において活動するものであることを考えると、従業員の職場外の行為であるからとの理由だけで、これを一切規制の対象とすることはできないと一概に断ずることはできず、その社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められるような所為については、それが職場外でなされた職務遂行に直接関係のないものであったとしても、なお広く企業秩序の維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もありうるといわなければならない。そして、国鉄のように極めて高度の公共性を有する公法上の法人であって、公共の利益と密接な関連を有する事業の運営を目的とする企業体においては、その事業の運営内容のみならず、さらに広くその事業のあり方自体が社会的な批判の対象とされ、その事業の円滑な運営の確保と並んでその廉潔性の保持が社会から要請ないし期待されているというべきであるから、その企業体の一員たる国鉄職員の職場外における職務遂行に関係のない所為に対しても、一般私企業の従業員と比較して、より広い、かつ、より厳しい規制がなされうる合理的な理由があるということができる。

ところで、国鉄法三一条一項は、国鉄職員が同項一号、二号に掲げる事由に該当した場合に懲戒処分をなしうる旨を定め、同項一号は、懲戒事由として、「この法律又は日本国有鉄道の定める業務上の規程に違反した場合」を挙げているところ、右の業務上の規程とは、国鉄がその従業員に対し遵守を要するものとして定めた規程を意味するものであって、結局いかなる事由を懲戒事由とするかを、国鉄が企業秩序の維持確保という見地から定めるところに委ねたものと解されるのである。そして、右の業務上の規程に当たる国鉄就業規則一〇一条一七号の「その他著しく不都合な行為があった場合」という規定は、同条一六号の「職員としての品位を傷つけ、又は信用を失うべき非行のあった場合」という規定と対比すると、単に、職場内又は職務遂行に関係のある所為のみを対象としているものではなく、国鉄の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認められる職場外の職務遂行に関係のない所為で著しく不都合なものと評価されるようなものをも包含するものと解することができる。そして、右規定は、さらに具体的な業務阻害等の結果の発生をも要求しているものとまで解することはできない。

(二)  本件につきこれをみるに、原告の本件所為は、職場外でなされた職務遂行に関係のないものではあるが、前記三認定のとおり、過激派集団と行動を共にし、公務執行中の警察官に対し暴行を加え現行犯逮捕されたというものであって、著しく不都合なものと評価しうることは明らかで、それが国鉄の職員として相応しくないもので、国鉄の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認めることができるものであるから、国鉄法三一条一項及びこれに基づく国鉄就業規則一〇一条一七号所定の事由に該当するものといわなけば(ママ)ならない。

五  次に、抗弁3の事実(本件処分の相当性)について検討する。

(一)  国鉄法三一条一項は、国鉄職員が懲戒事由に該当した場合、懲戒権者である国鉄総裁は、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる旨規定しているが、懲戒事由に該当する所為をした職員に対し、総裁がどの処分を選択すべきかについては、その具体的基準を定めた法律の規定はなく、また、国鉄就業規則にも具体的基準の定めはない。従って、懲戒権者がどの処分を選択するかを決定するにあたっては、懲戒事由に該当すると認められる所為の外部に表われた態様のほか、右所為の原因、動機、状況及び結果等を考慮すべきことはもちろん、さらに当該職員のその前後における態度、懲戒処分等の処分歴、社会的環境、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響など諸般の事情を総合考慮したうえで、国鉄の企業秩序の維持確保という見地から考えて相当と判断した処分を選択すべきであるが、どの処分を選択するのが相当であるかについての判断は、前述のように、かなり広い範囲の事情を総合したうえでなされるものであり、しかも、前述のように、処分選択の具体的基準が定められていないことをも併せ考えると、右の判断については懲戒権者の裁量が認められているというものと解するのが相当である。もとより、その裁量は、恣意にわたることは許されず、当該行為との対比において甚だしく均衡を失する等社会観念に照らして合理性を欠くものであってはならないが、懲戒権者の処分選択が右のような限度を超えるものとして違法性を有しない限り、それは懲戒権者の裁量権の範囲内にあるものとして、その効力を否定することはできないものといわなければならない。

(二)  本件につきこれをみるに、原告の本件所為は、前記三認定のとおり、凶器準備集合罪、公務執行妨害罪、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反に該る犯罪行為であり、その態様も過激派集団と行動を共にして敢行した積極的かつ反社会性の非常に高い過激な行動で、付近住民に与えた不安はもとより社会に及ぼした影響も極めて大きく、それ自体において重大であるうえ、過去に戒告処分二回の処分歴を有する(なお、被告主張の停職処分は、〈証拠略〉によれば、新潟地方裁判所及び東京高等裁判所によって無効であることがそれぞれ確認され、同六三年一一月一日上告棄却により確定したことが認められるから、右処分の存在を本件処分の相当性判断の一事情として考慮することは相当でない。)ことなどの諸事情を総合すると、国鉄における過去の同種事案ないし職場外行為に対する処分例等に比し過重である旨の原告の主張事実(原告主張の処分例はいずれも本件と事案を異にするから、本件と比較対照すのは適切を欠く。)、及び免職処分の選択に当たっては他の処分の選択に比較して特別に慎重な配慮を要することなどの諸点を勘案しても、なお、国鉄が原告に対し本件所為につき本件処分を選択した判断が合理性を欠くものとはいえないから、本件処分は、裁量の範囲を超えた違法なものということはできない。

六  以上によれば、本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林豊 裁判官 長久保守夫 裁判官 田島清茂)

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